だって、そう決めたのは私
「ふぅ。と、言うわけで中川さん」
「うん、どういうわけだろう」
「今度の新作なんですけど」

 思春期の学生のようにキラッと歯を見せながら笑う池内。いつもこうやって、彼の不思議な言い回しで打ち合わせが始まっていく。

 彼はとにかく、他者の懐に入るのが上手い。初めて彼に会ったのは十年も前のことだけれど、今でも思い出す。初めて付いた担当者というものに緊張した僕に、彼はこうやってスッとそれを解してくれた。それから二人三脚。友人のようにあれこれ相談をしながら商品化してきた。その池内が少し偉くなってしまったから、佐々木が担当に入ったのは最近のことだった。

「贈り物にもしやすい感じでってことで、ちょっと考えてみたんだけどね。こうコロンとした形のポーチとか、どうだろう」

 幾つかのデッサンを彼らに提示する。最も緊張する時だ。今回提示するのは、三つのポーチ。バニティ型、柔らかめのぷっくりとしたがま口、それから丸みを帯びたシェル型だ。カナちゃんはシェル型の小さめなのがいいかな、と密かに思っている。気に入ってくれるといいなぁ。毎回そう思って作るのだけれど、いつも使ってくれている鞄以外は、まだ受け取ってもらえていない。
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