だって、そう決めたのは私
「あ、そうだ。前にね、義母にこういうポシェットが欲しいって言われたんだよね。えぇと、こういうの」

 以前カナちゃんの実家へ行った時に、言われたのだ。鞄は小さい方が良いけれど、ポケットが沢山欲しい。手に持っていると色々不安だからポシェットとかないかしら、と。

「ポシェットっすか」
「そうなの。このご時世、手に持っているのも不安だし。斜めに掛けてしまうのが一番安心だからって」
「あぁそれは確かに」
「で、義母曰く、荷物が多いみたいでね。出先であれこれ必要になった時のためらしいんだけど。子育ての名残とかなのかなぁ。百円ショップみたいなのもなかったし。少しずつ持ち歩く癖みたいなのが付いてるらしいの。だから、ポケットとかも多いと嬉しいって」

 なるほど、と佐々木が顎を揉む。「携帯がありゃ良いって話じゃないんですね」と続いたが、いまいちピンときていない様子だ。池内の方は楽しそうに、携帯で画像検索を始めた。

「で、その話を聞いて思ったんだけど。これとは別になるんだけど、ポケットが沢山ついてるシリーズってどうかな。ポケットの革の種類変えれば、そんなに高くはならないはず。例えば、こういう」

 ササッと手を動かした。大体が義母に熱弁されたままの受け売り。でも、カナちゃんならこういうのが似合うな、なんて考えていたりもする。

「あ、それならリュックも良いかもしれないですね」

 佐々木はそう言うと、手元にある資料の片隅にササッと絵を描いて見せた。思わず、へぇ、なんて感嘆の声を上げる。それはポイントを掴んでいて、とても分かり易い絵だ。それから池内も案を出し、どんどんブラッシュアップされていく。

 僕は、こういう作業が好きだ。自分ひとり考え続けていくよりも、イメージが具現化され、頭の中まで整っていく気がするから。今までは、僕のデッサンに池内がポイントを文字で朱入れしたり、意見を言うような形だった。だから佐々木のようなやり方に触れるのは新しくて、何か良い物が出来そうでワクワクするな。
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