だって、そう決めたのは私
「あ、ペットフード……って、もしかしてタケナカ牧場?」
「そうです、そうです。知ってます?」
「いや、妻が働いてるんだよ。ちょうど夕べ、話題に上がったところだったんだ。カメオカって知ってるかって。そうか、池内くんたちだったんだ。へぇ」

 昨夜の食卓が思い浮かぶ。彼女は営業ではないから、直接彼らには会ってないのだろう。でも、世間は狭いものだな。

「奥さんって……確かえぇと、獣医さんでしたよね。動物病院とかで働いてるのかと思ってましたけど、違うんですね」
「あぁ、どっちもやってるの。見聞を広げたいんだって。昔から、頑張り屋さんだから。あの人」
「あ、惚気っすか」
「ち……がいます」

 池内が嬉々とした顔でこちらを見た。違うからね、と念を押したが、まだニヤ付いているのが気に入らない。でも、こんな風に誰かに彼女のことを話すことがないから、僕は不思議な感覚を得ている。惚気、か。何だかその言葉に焦って、コーヒーに手を伸ばし心を落ち着けようと試みた。小さくフゥと息を吐いた時、佐々木が不思議そうな視線を寄越した。 
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