だって、そう決めたのは私
「カナコは終わった?」
「あぁ、うん。夕方、結構時間取れたからね」
「そっか。先帰る?」
「何言ってんの。いますよ。片付けもまだだし」
「そう?」

 ありがとね、と暁子が言った。いつもの疲れている顔だった。最近は茉莉花も家事を手伝ってくれると言っていたけれど、その時の言い方からして、暁子はそれを良しとしていない。大学生にもなれば一人暮らしの子も沢山いるが、そういう苦労を出来るだけさせたくないようなのだ。茉莉花は、「料理も洗濯も当たり前に出来るし、ママを助けたいのに」と口を尖らすが、なかなか噛み合わない。暁子はいつも、父親のいない不憫さを娘に掛けるまいと踏ん張ってしまうのだ。私はそれが、どうにももどかしい。あぁ、暁子にも寄り掛かれる肩があればいいのに。勝手だけれど、そう思ってしまう。

「ねぇ、暁子」
「ん、なに」

 片付けをしながら、それとなく問いかける。真面目な話をしようってわけじゃない。これはただ、単に女同士の密談。だから、彼女の方は見ないまま。
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