だって、そう決めたのは私
「単純に疑問なんだけど。暁子はもう結婚しないの?」
「は? もうって何よ。私は未婚。戸籍は綺麗なもんですよ」
「いや、そうなんだけど。結婚する気は、もう湧かないのかって話」
「えぇ……結婚? 今更してもねぇ。茉莉花は可愛らしく、いい子に育ったし。本当に今更、男とかいる?」

 うぅん。思わず顎を揉んだ。

 今更必要なのか、と問われれば否だ。だって、今の今まで女手一つ、立派に生活しているし。私はたまたま宏海と意気投合して生活を共にしているが、そうでなかったら同じように思っている。

「いらない、かも」
「でしょう?」
「うん。でもさ、いい人がいたら恋をするかもしれないよね」
「まぁそうかもしれないけど……って何なのよ。急に」
「いや、特に何でもないんだけど。もしも茉莉花がここを出てしまったら、淋しくなるなぁって思って」

 それは本心だった。というか、茉莉花も心配している。自分の好きなことをやりなさい。ママはそう言ってくれるけれど、もしも一人になったら大丈夫なんだろうか。最近会えば、いつもそう零しているから。

「あぁ、確かに。あの子がやりたいことね。多分、海外なのよ。だからカナコに言うんでしょう。ママは大丈夫かって」
「あ、知ってたのか」
「知ってるわよ。あの子、心配性なのよね。誰に似たんだか知らないけど」
「いや、暁子でしょう。いつだって心配してたじゃない。学校は楽しいのか。授業は何やってるの。お友達とは仲良くやってるか。宿題したか。忘れ物ないかって」
「そっか……私か」
「ちゃんと母を見てるわよ、あの子は」

 大きくなったわね、と暁子の背をポンと叩く。眉を八の字にしてこちらを見た彼女から、肩の力が少し抜けた。
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