だって、そう決めたのは私
「コーヒーはどこまでいったんだろう。最近行ってないんだよなぁ」
「そっか。まだ出せねぇって言われてるみたいだから、レベルは低いんじゃない? おじちゃん的に」
「それは仕方ないよ。コーヒーは、おじちゃんのこだわりだもん」

 毎晩コーヒーの淹れ方を特訓をしている、と匡が前に言っていた。おじちゃんに教わって、おばちゃんが審査する。そういう流れらしい。審査員がうるせぇの、といつも匡は言うけれど。そんな時間も一つの親孝行なのだろうと思っている。それに、例え匡が大変だとしても、客としては有り難い話。私も宏海も、あの店がなくなるのは寂しいもの。

「そうだ。まぁくんがね。喫茶店でもカレーをやりたいって思ってるみたいで」
「へぇ、いいんじゃない? ナポリタン、ミートソースとサンドイッチくらいだったもんね。食事っぽいの」
「そう。あとはホットケーキ」
「あぁそうだ。懐かしい」
「でね。喫茶店のカレーは、キーマがいいかとか悩んでるっぽくて」

 匡の話をする宏海は、いつもと変わらず楽しそうだ。それはもう昔からのことだから、私も自然と笑っている。私達の共通の話題がこれしかないのだから、匡の話になるのは仕方ない。もしかしたら、一週間の半分くらい。それは……ちょっと多くない? ん、何だろう。自分の感情にふと違和感を抱く。薄暗いモヤが心に広がっていくような。あれ……私、ちょっと面白くないかもしれない。
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