だって、そう決めたのは私

第14話 心の上澄み

 あれから数日。私の心は、ずっと自身に問いかけている。あの感情は何だったのか。私が知っているものであるのか。いや、そんなはずがない。そんなことを堂々巡りしていた。

「カナコさん。まだお仕事中ですか」
「はい、何でしょう」
「すみません。ちょっと確認したいことがあって……」

 会社の自席で、昼前に確認したい書類とにらめっこしているところだった。もうすっかりお友達にな老眼鏡を外し、声を掛けてきた人物に向き合う。この声は、渉。週末、愛猫モカ様を病院に連れて来たので、まぁ数日ぶりである。

 ちなみに私と暁子は、彼の愛猫をモカ様と裏で呼んでいる。綺麗、というよりも、美しく気高い。彼女はそんな風に感じさせる気品があるのだ。素直に診察はさせてくれるし、投薬も嫌がらない。そんな子は珍しいわけでもないが、何と言うか振る舞いがお嬢様なのである。そして、そう呼んでしまう原因はこの男にもあった。渉がしきりに心配している様子が、お嬢様と執事のように見えてしまうのだ。もしかすると、モカ様のせいというよりも、渉が愛猫にヘコヘコし過ぎるせいかもしれない。

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