だって、そう決めたのは私
「ん、もしかして……それでうちの病院に変えた?」
「……はい。前の病院は少し離れていて、ちょうど家と近かったのもあるんです。だから、そうモカにも説明をして、納得してもらって」

 あ、納得してもらったんだ。とは流石に言えない。こういうところが、モカ様に傅いていると思ってしまう所以である。

「でも……何年と通っているのですが、多分、暁子先生は覚えてないですよね。モカの飼い主としては認識してもらえてるかもしれないですけど、百合さんと一緒に来た男だとは」
「ん、それくらいは覚えてるよ。暁子も」
「本当ですか」
「あ、うん」

 それくらいのことで、キラキラした目を寄越されるとたじろいでしまう。お茶に手を伸ばし、その純粋な眼差しを若干和らげた。「覚えてもらってるんだ」と嬉しそうに呟く彼を、生暖かく見守る。こんな些細なことで、そんなにも心が弾むものだったか。遥か昔に忘れてしまった記憶が思い出せず、首をひねる。うぅん。そう唸った時、今度は突然渉が顔を萎ませた。
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