だって、そう決めたのは私
「暁子先生に、この好意をお伝えしたらご迷惑でしょうか」

 ボソボソと呟くような声だった。暁子に迷惑をかけたくない思いも当然あろうが、自信がない表れなのだろう。下を向き、身を硬くし、渉はギュッと箸を握った。

「迷惑ってことは、ないと思うよ。でも急にね、好きですって言うのはハードルが高いでしょう? だから、仲良くなる段階を作らないといけないかもね」
「仲良く……」
「そうねぇ。何かしら理由を付けて飲みに誘うとか。仕事を交えてみるとか。偶然の遭遇を装うとか。そんなところかしらね。でも仕事を絡めようとすると、もう少し協力者が必要かしら、百合とか」
「えぇと……部長の手を煩わせるのは気が引けます」

 そりゃそうだ。どうもこういう感情から離れて久しく、思いつく案もチープである。こういう時は、どうするのがいいんだっけ。

「俺の家、病院の近くなんです。だからその、カナコさんたちが仕事上がりに飲むことがあれば、行けると思います。自然に合流出来るようにすればいいんですよね。頑張ります」
「うん、そうだね。でも、自然にって難しくない?」

 例えば、渉が飲んでいる店に私たちが行って、あらぁこんにちは、みたいなことをする。逆に、私たちが飲んでいるところに渉が来て、仕事上がりですか、とかって合流する。自分がやることを想像してみるが、どちらにしても上手く出来る気はしない。
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