だって、そう決めたのは私
「久しぶりに恋をして数年経ちましたけど、憧れはカナコさんのご夫婦なんですよね。各々が自立していて、助け合っているように見えて。大人の関係で、旦那さんはきっと幸せなんだろうなって思うんです。それに、あんなに綺麗な弁当を奥さんに作って、すごい愛だなぁって」
「愛、か。それは、どうだろうね」
「愛ですよ。それにカナコさんも、凄く旦那さんのこと大事にされてますもんね。いつも幸せそうに弁当を突いてるの見ますから。愛だなぁって」
「幸せそう?」
「え? 凄く嬉しそうに弁当箱を覗き込んでるの、よく見ますよ。ほらうちの関根もよく言ってます。幸せそうでいいなぁって」

 幸せそう? 今日の弁当はなんだろうな、とは思っているけれど。まさか、それがそういう風に見えているなんて思いもしなかった。かなり恥ずかしい。これから気を付けなくちゃ。

「だから、あぁお互いに愛し合ってるんだなって、俺たちいつも思ってますよ。好きな人と結婚できるって幸せなんだって」

 渉の言葉にぎょっとした。好きな人だって?

 私の中に、宏海を好きだという感情はない。彼に弁当だって作ってくれるし、そもそもこんな可笑しな生活も文句も言わず付き合ってくれる。それには感謝しかないが、恋愛的な意味があるのかと言われると首を傾げざるを得ない。ずっとそう思ってきたし、今もそう感じてはいる。 

 でも、でも……確かにそう断言するには違和感がある。ここ数日悩んでいた感情。それが何なのか、本当はもう見えている。ただ、認めたくないのだ。だって認めてしまったら、絶対にこの生活は終わってしまう。小さな幸せをかき集めるような毎日が、自分のせいで終わってしまう。臆病になってしまった私は、そうなるのが正直嫌で、怖い。だから、今は必死にそれから目を逸らしている。分かっている、分かってはいるけれど。
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