だって、そう決めたのは私
「宏海は? 新しいもの出すって言ってたじゃない」
「あぁ、うん。今ね、担当者さんと詰めてるところだよ。今回は鞄からは離れて、ポーチとかそういう小物のシリーズにしようと思ってるの」
「へぇ」

 宏海は革製品を作り、販売している。こことは別に構えているアトリエがあって、仕事は主にそこでしているようだ。まぁ私は行ったことがないし、彼の仕事が実際にどんな風なのかなど詳しくは分からない。この生活を始めるにあたって、宏海は簡単に説明はしてくれたが、私にはちょっと想像が付かなくて。もやぁっとした印象でしか残っていなかったりする。宏海は自嘲気味に教えてくれたが、そこそこ売れてはいるようだ。どこかの会社と契約して、他の作家とのコラボ商品なども手掛けているとか。全く分からない世界過ぎて、私はいつも「凄いねぇ」としか言えていない。

「ふぅん。ポーチかぁ。柔らかそうなのだったら、私も買おうかな」
「何言ってんの。僕らは夫婦(・・)でしょ。そのくらいプレゼントしますよ」

 ヤッター、という言葉が少し棒読みなのは勘弁して欲しい。素直に喜べばいいものを、どうも上手くやれない。あまりこういうシチュエーションを経験してこなかったのだ。だから今も、結構恥ずかしくて目を泳がせている。視界の端に捉えた宏海は、ニマニマして嬉しそう。だから、また少しだけ不貞腐れた。

 彼はきっと、私がどう反応するのかも分かっていて楽しんでいるように見える。あの離婚から、弱いところを誰にも見せたくない気持ちが強くなってしまった私には、そういう彼の優しさが嬉しくて、苦しかった。
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