だって、そう決めたのは私
「お待たせ」

 枝豆を持って隣に腰を下ろすと、カナコはすぐにビールを寄越した。よほど飲みたいのだろう。乾杯、と軽くぶつけると、彼女はグビグビっと勢いよく酒を流し込んだ。

「ふぁぁ。疲れた」
「大丈夫? 仕事のことだったの?」
「あぁ、ううん。仕事ではない。相談を受けてたというか」
「仕事じゃない相談?」
「そ。だから気を遣ってたみたいで、疲れちゃった」
「そうなんだ。お疲れ様」

 枝豆を口に入れて、美味い、と噛みしめるカナコ。仕事じゃない相談を異性から受けるって、どんなことだろう。恋愛相談、と考えるのが妥当なのだろうか。

「そうだ。宏海、忘れないうちに言っておくね。土曜日なんだけど、暁子と飲みに行っていい?」
「え? 暁子さん? いいよ、いいよ。気にしないで。行っておいで」
「うん。有難う」

 僕の返事を聞いてホッとした様に見えた。でも、カナコは黙り込む。缶ビールの表示をマジマジと見ながら、何かを考えているようだった。どうしたの、と声をかけようとした時、カナコから思いがけない言葉が落ちる。恋か、と。あまりに彼女からは出てこないような単語で、僕は目を丸めて覗き込んでしまった。
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