だって、そう決めたのは私
「ねぇ、宏海ちゃん、何か知ってる? おじさん、今日ずっと変なんだよねぇ。でも、私が聞いても教えてくれないの」

 可愛らしい内緒話だった。姪に話したくないくせに、簡単に気付かれるほど上機嫌だったのか。つい、匡に目をやってニマニマと頬が緩む。もしかしたら、これから進展するような話になるのかな。そう思い至った時、恋じゃないかと思うんだけど、と千夏が言った。思わず、は? と声が出てしまった。あまりの名探偵ぶりに、あんぐりと開いた口が塞がらない。なんて顔してるの、と笑われたけれど、恋愛の現役世代は敏感だ。妙に感心している。

「余計なこと言ってんじゃねぇ、千夏。ほら。持ってけ」
「はぁい」

 匡にベェっと舌を出してから、カレーを乗せたトレーを持って千夏が背を向けた。それを見つめて、呆れたように匡が溜息を零す。何だかそれが可笑しくて、大きくなったねぇ、と問い掛ける。匡は叔父の顔をして、そうだな、と笑った。

「そうだ。宏海、プリン食える? あっちで復活させようと思ってて」
「本当? おじさん、大変だからってやめちゃったもんね」
「そ。売りが増えるのもいいだろ」

 喫茶店を継ぐ現実が、徐々に近づいてくる。匡には悪いけれど、続いていってくれるなら、本当に嬉しい。匡のカレーはだけれど、やっぱりあの店がなくなるのは嫌だから。
< 90 / 208 >

この作品をシェア

pagetop