だって、そう決めたのは私
「ん、これ。こんな感じだったよな? あ……れ?」
「ん?」
「あの子……昨日の」

 プリンを差し出した匡が、一点を見て固まる。その先には、さっき二人で入ってきた女の子。昨日の、というのだから、きっとブンタを撫でてくれた子だろう。大人しそうな女の子を見る匡を見て、僕は人知れず安堵していた。

「声、掛けてきたら?」
「いや……いいよ」
「まぁくん、奥手過ぎない?」
「うるせぇな。宏海だって人のことは言えねぇだろ」

 そう返されて、結局言葉に詰まった。確かに、次の一手が出せない。しかも、もう何年も。

 でも少しだけ、最近は変化を見せていると思う。元夫の記事を見つけた日、カナちゃんが僅かに見せた甘え。もしかしたら、とほんの少しだけ期待した。でもあれからも彼女はいつも通りだし、結局はふりだしに戻ったけれど。いつか、《《弟》》を打開する日は来るだろうか。今、最大の悩みである。
< 91 / 208 >

この作品をシェア

pagetop