だって、そう決めたのは私
「あ、あれぇ。カナコさんじゃないですか」
「……五十嵐くん。こんばんは」
「え? 何、何があったんですか」
「あら、五十嵐さん。こんばんは。ふふふ、カナコ。なるほどねぇ」
「あぁぁぁぁ。五十嵐くん、本当にごめんなさい」

 元演劇部の演技を見せてもらおうか。そう思っていたはずが、それどころではなくなってしまった。白旗を上げたばかりの私は、彼に謝るしかない。恋路を応援しようとして、この有り様だ。ペコペコするしかない私に、彼は早々に状況を察したようだった。

「カナコさん、良いですって。でもこう言ったら申し訳ないですけど、何かカナコさんらしいですね」
「でしょう? カナコってこういう子なのよね。昔から。ほらほら。五十嵐さんも座って。一緒に飲むつもりだったんでしょう?」
「あはは。もう真正面からお誘いしたら良かったですね。じゃあ、お邪魔します」

 和やかに、それでいてスムーズに整えられていく場に、私はまだついていけない。でも今日は、私はキューピットになるんだ。下を向いていても仕方ない。キリッとした顔を見せたが、余計に暁子に笑われてしまった。

「カナコは無理なのよ。こういうこと」
「返す言葉もございません」
「いやぁ、俺が悪いんですよ。すみません。変なことお願いして」
「いやいや、ホントごめんね。上手く出来てると思ったのよ」
「こういうところがカナコの可愛いところよね。カナコのことだから、宏海くんにも今日のこと言わないで来たんでしょう?」
「そりゃそうよ。他人から相談された事項を、簡単にバラすような真似しないわよ」
「うん。カナコはそう考えるわよね。きちんとしてる。でもね。それきっと、バレてるわよ。恐らく、どんな飲み会なのかくらいはね」

 漫画みたいに、そんな、という陳腐な返ししか出なかった。宏海は珍しく気になっているようだったけれど、五十嵐くんのことを勝手に言うわけにもいかないし、上手く誤魔化して来たつもりである。けれど、暁子にこう言い切られると、何だか全部バレているような気が来るのが不思議だ。

「まぁ、何でもいいわ。飲みましょ。五十嵐さんは何飲む? ほら、カナコもまだ飲むでしょう? 私は次、何にしようかしら」

 あっさり状況を飲み込んで、一気に場を空気を変える。いつまでも尾を引いてしまう私には、なかなか出来ないことだ。私はつい、あれこれ意味のないことまでも考えてしまって、二の足を踏んでしまう。暁子とは違って、あまり先頭に立つタイプではないのだ、私は。
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