だって、そう決めたのは私
「ん?」

 ちょうど着いた最寄り駅。開いたドアから足を踏み出したが、すぐに立ち止まりそうになった。後ろにいた人に睨まれて、邪魔にならないところに身を寄せる。それほど混み合ってはいないホーム。私は、一人パニックになった。

 他人の恋に触れたら、自然と開いた自分の心。今、確かに宏海に会いたい。この嬉しい気持ちを共有して、彼がどんな顔をするだろうって考えてしまう。ズルズルと歩き始めて、自分の内に問いかけた。私はどうしたいのだろう。

 宏海との生活は居心地がいい。彼の隣に座るのはホッとするし、心が穏やかでいられる。彼の作る食事が美味しいのは当然で、外で誰かと食べるよりも、二人でそれを一緒に摂る食事が美味しい。この生活を私は幸せだと思っているけれど、今以上の関係を望むだろうか。暁子に今告げた言葉を思い出す。私が今、素直に感じる気持ち。細く長い息を吐いて、ふわりと浮かんだ気持ち。

――ただ彼の隣りにいたい。

 これは多分、五十嵐くんのような恋ではないと思う。けれど、誰かにこの生活を取られたくないのも確かだ。宏海と二人で、美味しいものを食べて、笑って暮らしていきたい。あぁそうか。きっと私、宏海のことが好きなんだ。
< 98 / 164 >

この作品をシェア

pagetop