オディールが死んだ日に
「3分経った、いっただきま~す」結は律儀に顔の前で手を合わせ割りばしを割る。
カップ麺なんて久しく食べてなかった。どれだけ忙しかろうが、ゼリー飲料やバランス栄養食のビスケットで済ませてきた俺。
豚骨スープなのだろうか、胃を刺激する濃厚なスープの香りが漂ってきて俺の胃が鳴った。
結はくすっと笑って俺を見るとカップ麺を手に俺の隣に座ってきた。この距離感は何故だか警戒する。何かされるんじゃないか、と構えてると
「カップラーメンおすそわけ。どーぞ」とズイとカップ麺を差し出され正直面食らった。
「いや、食いたいとは…」
「どーせ何も食べないでお酒ばっか飲んでたんでしょ?そうゆうの良くないよ。あたしはお酒を飲んだことがないから分かんないけどおばあちゃんが源太郎じいちゃんに……あ、源太郎じいちゃんってのは近所に住んでるおじちゃんでね、あたしにも色々良くしてくれた優しいおじちゃん」
源太郎じいちゃんの情報はどーでもいい、と内心思ったが結が死んだばあちゃんのことを思い出しているのなら、それに浸らせてあげた方がいい。何故なら今俺がその状況だから。どんな些細なことでもいい、翆のことを思い出して、それを考えるだけで少しだけ救われるんだ。
「げんたろーじいちゃんてのはそんなにのん兵衛なのか?」
「あの辺一体では有名だったよー、割とかっこよかったから出入りしてたスナックでおじちゃんを巡って色々あったとか、そういえばおばあちゃんにもちょっとアタックしてたな」
「げんたろーじいちゃんモテモテだな。ばあちゃんはげんたろーじいちゃんに落ちなかったのか?」
「落ちなかったよー、だっておばあちゃんはおじいちゃんのことが大好きで…」
と言うところで結は言葉を飲み込んだ。ああ、そう言えば結が生まれたぐらいのときに亡くなったとか。俺には幸いにもまだ両親は健在だ。しかし翆も結も天涯孤独の身同然だ。同情―――と言うのだろうか、この感情は。ただ、大切な人を亡くした、と言う事実が二人だけの共通の事柄。
「カップラーメン、少し貰うよ」俺は結が差し出してくれたラーメンを手元に引き寄せた。