オディールが死んだ日に
「出会いは―――そうだな。NYでだ」
そう、あれは四年前のちょうどこの時季。Kick rook の名前が本格的に世界に知られはじめたとき、俺はある投資家たちのパーティーに出席した。パーティーとは言っても俺はそれを楽しむつもりは毛頭なく、最初から目をつけていた投資家の一人と開始五分でさっさと話をまとめ、挨拶もそこそこに帰ろうと決めていた。金持ちのセレブばかりが集まるパーティーは退屈で、世界に名が知れたと言ってもまだ新参者の俺がすぐに馴染めるわけもなく、ひたすら帰るタイミングを計っていたところだった。
まるで舞踏会と見まがうような豪華なしつらえに、着飾った紳士淑女。どこか遠く異国の、それも時代錯誤な会場だった。ビュッフェ形式にはなっていたが俺が口にしたことのない料理がずらりと並んでいて、ボーイたちがシャンパン等の給仕に余念がない。大きな広間には階段があり、両脇に広がったやたらとごてごてと装飾のある、しかし滑らかな曲線を描く手すりが続く二階部分に、
濃いグリーンのボールガウン、夜の正装にしては少し丈が短いように思えたが、そんな色っぽいとも愛らしいとも見えるドレスを見事に着こなした翆が一人で突っ立っていた。翆は殆ど空になったシャンパングラスを持って、ぼんやりと階下の会場を眺めていた。
オフショルダーで大きく開いた胸元や華奢な肩。金のビーズや刺繍が品よく、ふわりと広がったスカート部分がこれまた姿勢の良さから中身を覗き込んでみたくなる程色っぽかった。
美人だった。ここにいる誰よりも、ただ立っているだけでもその存在感を圧倒させる程、彼女は輝いていた。
俺は躊躇なく彼女に近づいた。
華やかなドレスとは違って化粧っけのない顔、年齢は俺と同じぐらいか少し下ぐらに思えた。大きな目元はそれ程化粧がないが、白い陶器のような肌に紅一点と言わんばかりに、唇に鮮やかな赤色のリップが引かれていた。それがまた色っぽい。所以アジアンビューティーと言うものだろうか。それに右下の泣き黒子がまた彼女の色気を増長させているように思えた。
俺が階段を上って彼女に近づくと、そこから爽やかでいてどこか甘さを含ませた蠱惑的な香りが漂ってきた。