オディールが死んだ日に
「美人が壁の花とはもったいないな」
確か、最初に彼女に話しかけたのはこの一言だった。
彼女は俺の問いに否定もイヤそうな顔もせず
「賑やかなところは苦手なの。あなたでもでしょう?」とほんの少しばかり悲しそうに笑いかけてきた。くすぐるような甘い少しばかりの低音は耳に心地よく響いた。もしかしたら俺よりも年上かもしれない。
「ああ、アルコールはいける?」
「少しなら」彼女は答え、俺はボーイを引き寄せ彼の手の上に乗ったトレイからシャンパングラスを二つ手に取った。その一つを彼女に手渡そうとすると黒いロンググローブから伸びてきた手は、しかし俺の手渡したシャンパンをキャッチしなかった。わざと、のように思えた。案の定シャンパングラスは床に落ち、しかし重厚な絨毯を敷いた床はゆるやかに流れるBGMが、グラスが割れる音をさらっていった。
「あらいけない、私としたことが」
彼女が落としたシャンパンの中身は俺の足元と彼女の足元に少しかかった程度だ。それでも彼女は大げさと思われる仕草で口元に手を当て「お手洗いに行きましょう。染みになったら大変」と俺の手を取ったのだ。