ジングルベルは、もう鳴らない

プロローグ 幸せのジングルベル


「また今年もこの曲?」
「そりゃそうだよ。これはさ、俺が樹里(じゅり)に告白しようって時に、背中を押してくれた曲だぞ」
「それはまぁ、ありがたいねぇ」
「だろう?」


 部屋には陽気なジングルベルが鳴っている。外国のおじさんの弾んだ声と、代わるように歌い始める女の人の声。どうしてこの曲が好きなのか知らないが、クリスマスの時期になると必ず聴かされている。これでなくても、クリスマスソングなんて山のようにあるというのに。彼は、このオーソドックスな古い洋楽が良いのだと言う。

 毎年、この曲を聴きながら過ごすクリスマス。二人でツリーを飾り、小さなケーキを分けて食べる。プレゼントは送り合わないが、それでも幸せな時間だ。こんな時間がずっと続けばいいのに、なんて願ってしまう。付き合い始めてもう六年。来年は、二人とも三十七歳になる。何か進展があればいいのだけれど。樹里は密やかにそう願っていた―――
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