ジングルベルは、もう鳴らない
「あ、あぁ……まぁ、いいか。よし」


 斎藤が冷蔵庫を覗いて、ブツブツと言っている。料理のことだろうか。ブンタは彼をじっと見つめて、時折尻尾を振る。冷蔵庫から美味しいものが出て来る。そう思っているのかも知れない。

 キッチンに立つ斎藤はとてもスマートで、手際もよく、無駄がない。僅かでも、彼を知りたいと思う気持ちがあるからだろうか。それが格好よく見えていた。


「さぁ、できたよ。お口に合うといいんだけど」
「わぁ、すごい。こんな短時間で?」
「ご飯は冷凍だけどね。どうぞ」
「はい、いただきます」


 目の前に出されたのは、野菜キーマの上に半熟の玉子が乗せられたカレー。よくあるそのフォルム。これまでの試食でだって、似たようなキーマは沢山あった。だけれど、夕べ、ジングルベルを思い出したからだろうか。あの日のカレーに似ている気がしてしまう。気持ちがその時にトリップして、樹里はギュッと唇を噛んだ。 
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