ジングルベルは、もう鳴らない
「大丈夫?」
「あ、はい。ごめんなさい。いただきます」
「デザートに……プリン、だけど。どうぞ」
「わぁ。ありがとうございます」


 普通の、至って普通のプリン。だけれども、このカレーの脇に添えられると、それもよく似ているように思えた。まるで同じ物を並べられているような感覚になる。でも、これは偶然だ。彼が知るはずもないのだから。苦々しい気持ちを思い出しながら、カレーをすくい上げる。味は、全然違うはずだ。そう言い聞かせ、スプーンを口へ運んだ。 


「え……」


 思わず声が出た。あの日の味を完璧に覚えているわけではないが、スパイスの強過ぎない優しいキーマ。それから、カルダモンの香り。まだカレーを一口しか食べていないのに、スプーンを持ち換えた。プリンにそれを差し込む手が震える。そんなことが、あるか。樹里がプリンを口に入れた時、目が合った斎藤はとても申し訳なさそうな顔をしていた。きっと、それが答えだった。
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