ジングルベルは、もう鳴らない
「それで、なんで落ち込んでるの。好きだって分かって、これからなんじゃないの?」
「え、だって。忘れちゃった? あの店には、可愛らしい女の子がいたじゃない。ヒロミって呼ばれてた」
「ヒロミ……」
「プリンを運んで来てくれたお姉さんよ」
そこでようやく、朱莉が「あぁいたね」と言った。本当に忘れていたのだろう。多分、ぼんやりとも顔を思い出してはいない言い方だった。
「結婚はしてないって言ってたから、彼女なんじゃないかな」
「あぁ……そういうこと、か」
「そ。あ、好きかも。なんて思った瞬間に、失恋したようなもんだよね」
「えぇ、でもさぁ。片想いしてる分には問題ないんじゃない?」
「向こうに彼女がいても?」
「え? だって、彼女でしょ。別れるかも知れないじゃん」
あまりにサッパリと言うもんだから、呆気に取られてしまった。でも、朱莉の言っていることは正しい。勝手に好きでいることは、何の問題もない。ただ、実ることのない想いを募らせるという不毛さが、いつまでも拭えないだけである。
「朱莉の言うことは分かるよ。でも、結果は見えてる。だから膨らまさない程度に、いつも通りにしてられればいいかな。それに、あのカレーは美味しいかったでしょう。今は実家の喫茶店で出してるみたいなの。仕事でもちょっと見に行きたいし」「出た。また仕事?」
「でも、美味しかったじゃない」
「まぁそうだけどさぁ」
朱莉は不満気だった。今きっと口を尖らせているのだろう。だが樹里は、彼女に話すことで、自分の失恋の行き場を見つけていた。だってもう、十分に大人だ。こんな時の冷静な対処など、香澄の件と比べれば容易いことだった。
「え、だって。忘れちゃった? あの店には、可愛らしい女の子がいたじゃない。ヒロミって呼ばれてた」
「ヒロミ……」
「プリンを運んで来てくれたお姉さんよ」
そこでようやく、朱莉が「あぁいたね」と言った。本当に忘れていたのだろう。多分、ぼんやりとも顔を思い出してはいない言い方だった。
「結婚はしてないって言ってたから、彼女なんじゃないかな」
「あぁ……そういうこと、か」
「そ。あ、好きかも。なんて思った瞬間に、失恋したようなもんだよね」
「えぇ、でもさぁ。片想いしてる分には問題ないんじゃない?」
「向こうに彼女がいても?」
「え? だって、彼女でしょ。別れるかも知れないじゃん」
あまりにサッパリと言うもんだから、呆気に取られてしまった。でも、朱莉の言っていることは正しい。勝手に好きでいることは、何の問題もない。ただ、実ることのない想いを募らせるという不毛さが、いつまでも拭えないだけである。
「朱莉の言うことは分かるよ。でも、結果は見えてる。だから膨らまさない程度に、いつも通りにしてられればいいかな。それに、あのカレーは美味しいかったでしょう。今は実家の喫茶店で出してるみたいなの。仕事でもちょっと見に行きたいし」「出た。また仕事?」
「でも、美味しかったじゃない」
「まぁそうだけどさぁ」
朱莉は不満気だった。今きっと口を尖らせているのだろう。だが樹里は、彼女に話すことで、自分の失恋の行き場を見つけていた。だってもう、十分に大人だ。こんな時の冷静な対処など、香澄の件と比べれば容易いことだった。