ジングルベルは、もう鳴らない
よし行こう、と一歩踏み出すと、時計がメッセージの受信を知らせる。邪魔された気になり、少しイラっとして見る画面には、朱莉の名が表示された。
『そろそろ着いた?』
『緊張すると思うけど、いつも通りにしたら大丈夫だよ、きっと』
『何の保証もないけど』
そう樹里を力付けるようなメッセージだった。斎藤の店へ行く時間を伝えていたのだ。タイミングが良くて当然か。朱莉ごめん、と思いつつ、画面に目を細めた。何の保証がなくとも、背を押されるのは悪くない。あの日、病院へ向かう斎藤に樹里も同じように言ったが、どう受け止められただろう。同じように、少しでも心の安寧に繋がっていたならいいけれど。
「よし、行こう」
「緊張しますね。今まで客として来てたのに、仕事ですもんね」
「そうね。私も緊張してる。交渉に、責任者として出るの初めてなんだよね」
「あぁそうですよね。でも、大丈夫です。僕、何回か来ましたけど。店長さん凄く穏やかで、優しいジェントルマンですから……って知ってるか」
ふふっと笑うに留めた。そう知ってるわよ、とは言わない。言いたかったけれど、言わない。
「行くよ」
少し緊張が和らいだ樹里は、スロープをゆっくり上った。重たそうな扉が近づくたびに、心臓の音が煩くなる気がする。大丈夫、そう言い聞かせて、その扉を押した。まだ儚く揺れている心には、がっちりと蓋をして。
『そろそろ着いた?』
『緊張すると思うけど、いつも通りにしたら大丈夫だよ、きっと』
『何の保証もないけど』
そう樹里を力付けるようなメッセージだった。斎藤の店へ行く時間を伝えていたのだ。タイミングが良くて当然か。朱莉ごめん、と思いつつ、画面に目を細めた。何の保証がなくとも、背を押されるのは悪くない。あの日、病院へ向かう斎藤に樹里も同じように言ったが、どう受け止められただろう。同じように、少しでも心の安寧に繋がっていたならいいけれど。
「よし、行こう」
「緊張しますね。今まで客として来てたのに、仕事ですもんね」
「そうね。私も緊張してる。交渉に、責任者として出るの初めてなんだよね」
「あぁそうですよね。でも、大丈夫です。僕、何回か来ましたけど。店長さん凄く穏やかで、優しいジェントルマンですから……って知ってるか」
ふふっと笑うに留めた。そう知ってるわよ、とは言わない。言いたかったけれど、言わない。
「行くよ」
少し緊張が和らいだ樹里は、スロープをゆっくり上った。重たそうな扉が近づくたびに、心臓の音が煩くなる気がする。大丈夫、そう言い聞かせて、その扉を押した。まだ儚く揺れている心には、がっちりと蓋をして。