ジングルベルは、もう鳴らない
「さぁ、これから本格的に動くことになります」


 ホッとしたメンバーの顔が、樹里の言葉にピリッとし始める。これから皆は、各部署とのやり取りをしながら、商品を作り上げていくのだ。樹里の会社では、次の部署へ丸投げはせず、このプロジェクトチームが中心になって動く。その責任者である樹里は、監督のようなものだろう。初監督商品が斎藤のカレー。思い出深いものにはなりそうだ。


「各部署への担当の割り振りは、今表示されている図の通りです。何か意見がある場合は、えぇと、こっそり教えてください。きっとここで発言しにくい人もいるでしょうから」


 色んな人の色んな感情を慮った。今のところ、顔に不満が出ている人はいないようだ。良かった。まだ未熟なリーダーは、いちいち皆の反応を見てしまう。そればかりに気を取られてはいけないよ、と課長にはよく言われているというのに。


「それぞれ報告は、密に行ってください。プロジェクトのページで情報を共有し、皆それを踏まえながら動きましょう。不安なこと、相談事があれば、何でも話してください。よろしくお願いします」


 メンバーはこの後、割り振られた部署に各自挨拶に行くことになっている。組になった人同士で話しながら、散会していく。できるだけ年齢層はばらけさせたつもりだ。反りの合わない人同士の組み合わせも避けたし、きっと大丈夫だ。どうか上手く回りますように。それから、無事に終われますように。私的感情を少々混じらせながら、今は願うだけだった。
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