ジングルベルは、もう鳴らない
「あ……え?」
徐々に向きを変えたその顔を目にし、樹里は驚き息を呑んだ。それから思わず二度見する後ろで、野次馬がそそくさと散っていくのを感じる。だけれども、樹里は一歩も動けなかった。
「あ、やだ。樹里さん。恥ずかしいところ、見られちゃいましたねぇ」
てへへ、と頭を掻いて、恥ずかしそうにする彼女――早瀬朱莉は、同じ社内サークルに属する後輩である。驚きの反面で、男に鉄槌を下す女の正体に、樹里は妙に納得していた。あぁ朱莉ならやりかねない。そう思ったのだ。
「いやぁ。まったく嫌になっちゃいますよね。最悪な男に捕まるところでした。あんな男、寝る前で良かったです」
「ね、寝る前……ね。それは良かった」
ハハハ、と笑って誤魔化した。野次馬はもうだいぶ捌けているが、公衆の面前でそんなことを堂々と言うなんて。朱莉はまだ二十代後半である。若い感覚なのだろうか。
徐々に向きを変えたその顔を目にし、樹里は驚き息を呑んだ。それから思わず二度見する後ろで、野次馬がそそくさと散っていくのを感じる。だけれども、樹里は一歩も動けなかった。
「あ、やだ。樹里さん。恥ずかしいところ、見られちゃいましたねぇ」
てへへ、と頭を掻いて、恥ずかしそうにする彼女――早瀬朱莉は、同じ社内サークルに属する後輩である。驚きの反面で、男に鉄槌を下す女の正体に、樹里は妙に納得していた。あぁ朱莉ならやりかねない。そう思ったのだ。
「いやぁ。まったく嫌になっちゃいますよね。最悪な男に捕まるところでした。あんな男、寝る前で良かったです」
「ね、寝る前……ね。それは良かった」
ハハハ、と笑って誤魔化した。野次馬はもうだいぶ捌けているが、公衆の面前でそんなことを堂々と言うなんて。朱莉はまだ二十代後半である。若い感覚なのだろうか。