ジングルベルは、もう鳴らない
「今日はもうお仕事、大丈夫なんですか」


 斎藤がこちらに問う。比較的早い時間なのに、ということだろう。樹里も大樹も、既に鞄を持って彼と並んでいる。本当はもう少し仕事がしたかったが、今日は十二月二十三日、金曜日。わざわざ残業をしている人もいない。僕らも一緒に帰っちゃいましょうよ、と荷を纏めた大樹に共感してしまったのである。


「本当は、私はもう少ししなくちゃいけなかったんですけど。今日はもう、ねぇ。皆、いませんし。何か一人ぼっちなのも寂しいので、いいかなぁって。先にお見送りすべきだったんですけど、すみません」
「あぁ、いえいえ」


 どうせ早く帰ったって、何の用事もない。明日、明後日のみっちり組まれた予定の準備をするだけだ。何を着て行こう。荷物はどうしよう。まだ定まっていない。

 明日は昼過ぎに待ち合わせて、クリスマスアフタヌーンティー。それから映画を観て、焼肉を食べる。日曜日は箱根へ行って、日帰り温泉らしい。忙しくとも、それもまた楽しかろう。本当は、一泊で旅行に行きたかったようだったが、思い付いたのが遅く、それは叶わなかった。どこも一杯だったらしく、リア充め、と朱莉は頻りに腹を立てていた。最悪樹里ちゃん家に泊まればいいや、とも言っていたが、あれは本気だろうか。


「斎藤さんは、クリスマスはデートですか」
「え? あぁいや。普通に仕事してます。店は開けますからね」
「じゃあ、僕と一緒ですね」


 何だか嬉しそうに大樹はそう言ったが、一緒ではないと思う。斎藤は仕事だと言っているし、何よりも彼女はいるのだ。彼女もいない。友人たちもデートで構ってくれない。そう拗ねていた大樹とは、全然違う。さっきよりも随分、冷ややかな目で部下を眺めた。
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