ジングルベルは、もう鳴らない
「敵かぁ……悲しい言い方だね。私はね、同性の友達がいるって幸せだと思ってる。結婚した子とは考えが違ってしまったけれど、未婚は未婚で楽しいことがあるじゃない。行き遅れてるって思われてたって、好きに旅行に行ったり、自由にできる。結構楽しいもんよ? 男なんていなくても」


 この場にいる半分が男なのに、こんな言い方をするのは良くないか。そう思ったところで、取り消せやしない。香澄の表情は多少和らいだが、腕を組んで、まだ苛立っているように見えた。「あの、ちょっといいですか」朱莉が口を開いた。


「黙って聞いてたけど……敵って言うのはさ、刃を向けてきた奴だけだと思うの。樹里ちゃんは、あなたにそれを向けた? 男に評価されることで、満たされることもあるとは思うけど。人生ってそれだけじゃないじゃん。樹里ちゃんはね、今すっごく仕事を頑張ってる。責任者として、フル回転だよ。それを評価するのは、男だけじゃない。私は後輩として、凄いなぁって思ってるし、憧れるよ。同性だから、見える部分もあるでしょう? ねぇ。樹里ちゃんは、敵じゃなかったんじゃない?」


 香澄はじっと黙ったまま、彼女の話を聞いた。この二人が喧嘩になることだけは避けたい。そう樹里はヒヤヒヤしていたが、意外にも香澄は言い返さなかった。それどころか、そうかぁ、と小さく言うのだ。組んだ腕を解き、表情が崩れるような、全身からポロポロと棘が抜けていくように見えた。泣きはしない。悔しそうな顔も見せない。だけど、分かる。これまで強く持っていた信念が、きっと今、彼女の中で揺らいでいるのだ。
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