ジングルベルは、もう鳴らない

第45話 ニヤリ、とした笑みを添えて

「小笠原さん。こんな男に時間かけるなんて勿体ないよ。私はね、友人とは言えないかもしれないけど……小笠原さんにちゃんと幸せになって欲しいと思ってる」


 これは本心だった。香澄のことを見ていてくれる人は、必ずいる。そして、それは千裕じゃない。樹里を陥れるためだけに、自分の人生を棒に振るようなことは決してしないと思うが、それをきちんと言葉で伝えておきたかった。ポカンとしたまま香澄が佇む。そのうちに笑いを堪えたようにえくぼを作り、ふふふっと声を漏らした。


「はぁぁ。そっかぁ。うん、そうよね。樹里、今幸せなのね」
「え、そう?」


 自分のことのように怒ってくれた朱莉。まだ心配そうにこちらを見ている大樹。巻き込まれた斎藤は、ホッとしたように微笑んでいる。確かに幸せだな、と思った。幸せだと判断する方法は人それぞれだ。こうして心配をしてくれて、寄り添ってくれる人がいる。樹里はそれでいいと思った。


「あの、俺。俺は? どういうことよ」
「そういうことよ。あのさ、千裕。彼女の愚痴なんて、あまり他人に言うことじゃないわよ。しかも、男のプライドが、なんて。私は、ちゃんと分かったよ? 樹里が転職をした理由も」
「はぁ? お前だって一緒になって」
「だから。同調してあげてた(・・・・・・・・)ってことよ。私は……ね、樹里。新しい場所に行きたくても、そうする勇気がなかった。だから、余計に悔しかったのかもしれない」


 香澄の気持ちを初めて知った。「樹里ともっと話してたら良かったのかなぁ」とさえ言う彼女に驚く。思わず朱莉と目を合わせて、フフッと微笑み合った。あれだけ強張っていた二人の頬は、いつの間にか緩んでいる。
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