ジングルベルは、もう鳴らない
第49話 もし、彼が結婚してしまったら
「無理はしないで」
斎藤の言葉に、樹里は頷いた。悲しいことがあったわけでも、悔しいことがあったわけでもない。恐らくこれは、全てが終わった安堵の涙だ。どうして泣いているのか、自分でもよく分からない。頑張ったね、と彼が言ってくれたことで、フワッと緊張が解けたのだと思う。
「いろいろ、大変だったよね」
「……そう、ですね。すみません、お見苦しいところを」
「いやいや。そんなことない。何があったかは分からないけれど、僕はね、松村さんは頑張ったって思ってるよ。その前にも、きっと嫌なことがあったんだよね。でもね。彼がどんな男でも、幸せだった思い出だって沢山あるでしょう。一緒にいた時間の全てを否定しなくていいからね。今は、いろんな感情があると思う。だから、泣いたっていいよ」
ただ優しく、彼はそう言った。
千裕と別れて、初めは落ち込んでばかりだった。斎藤へのフワフワした想いを抱く前は、ずっと下を向いて生きていた気がする。他の女との子供ができたという、最悪の裏切り。その話が例え虚偽であっても、千裕がはっきりと否定しない限りそれは真実でしかなかった。そもそも千裕が、嘘をついまであの子と会っていたことは事実だ。それは何度忘れようとしても、チクチクと胸を刺激した。それが、ようやく全部終わったのだ。清々しいはずなのに、まだじわじわと涙が湧いている。
樹里の背に、触れるか触れないかの優しい手が添えられ、二人はベンチに腰を下ろした。ブンタが心配して、クゥンと鳴いている。右手をそっと伸ばし、大丈夫だよ、と告げた声がひどく擦れていた。ブンタは優しい子だ。ベンチに座った樹里に、そっと寄り添ってくれる。その温かさは、また視界を歪ませた。
斎藤の言葉に、樹里は頷いた。悲しいことがあったわけでも、悔しいことがあったわけでもない。恐らくこれは、全てが終わった安堵の涙だ。どうして泣いているのか、自分でもよく分からない。頑張ったね、と彼が言ってくれたことで、フワッと緊張が解けたのだと思う。
「いろいろ、大変だったよね」
「……そう、ですね。すみません、お見苦しいところを」
「いやいや。そんなことない。何があったかは分からないけれど、僕はね、松村さんは頑張ったって思ってるよ。その前にも、きっと嫌なことがあったんだよね。でもね。彼がどんな男でも、幸せだった思い出だって沢山あるでしょう。一緒にいた時間の全てを否定しなくていいからね。今は、いろんな感情があると思う。だから、泣いたっていいよ」
ただ優しく、彼はそう言った。
千裕と別れて、初めは落ち込んでばかりだった。斎藤へのフワフワした想いを抱く前は、ずっと下を向いて生きていた気がする。他の女との子供ができたという、最悪の裏切り。その話が例え虚偽であっても、千裕がはっきりと否定しない限りそれは真実でしかなかった。そもそも千裕が、嘘をついまであの子と会っていたことは事実だ。それは何度忘れようとしても、チクチクと胸を刺激した。それが、ようやく全部終わったのだ。清々しいはずなのに、まだじわじわと涙が湧いている。
樹里の背に、触れるか触れないかの優しい手が添えられ、二人はベンチに腰を下ろした。ブンタが心配して、クゥンと鳴いている。右手をそっと伸ばし、大丈夫だよ、と告げた声がひどく擦れていた。ブンタは優しい子だ。ベンチに座った樹里に、そっと寄り添ってくれる。その温かさは、また視界を歪ませた。