ジングルベルは、もう鳴らない
「僕もね、裏切られたことがあるんだ。もう二十年以上経ってるから、昔のことだって笑えるけどね。そんなことがあってすぐは、僕だって辛かったよ。状況は同じじゃないだろうけれど、好きな人に裏切られることは堪える。些細な事だって、嘘を吐かれたら傷付くからね。でもね、無理をして忘れようとはしないで。自然に忘れられた時、きっと笑い話にできるから」
ね、と斎藤が笑った。この話はきっと、以前彼の母が言っていた話だろう。匡はだまされやすい、というアレだ。思い出したくないであろう過去を話し、隣に座っていてくれる。その優しさに触れ、視界が少しずつ落ち着いていく気がした。ぼぅっと眺めた空は、今にも雨が降りそうな重たい雲が広がっている。
「結婚、すると思ってたんです。彼とは長く一緒にいて、指輪を一緒に見に行こうなんて、ようやく言ってもらえたところでした。そんな時、彼女に彼との子供ができた、なんて言われて……まぁ、結果的には嘘だったんですけど。でも、それを知った時はショックで」
「子供、か。そうか。それは辛かったね」
「へへっ……そうですね。なので……斎藤さんのお店で泣きました。それからは、朱莉ができるだけ連れ出してくれて。歯を食いしばっていたのは、僅かだった気がします。長く一緒にいたから、時折思い出すのは仕方なかったですけどね」
仕事が忙しかったのは、幸いだった。家に帰るのも遅くなり、あっという間に眠りについた日が多かったから。それでも残暑の頃は、グッと踏ん張っていた気がする。斎藤と話すようになるまでは。彼とブンタは、樹里に自然な笑顔を思い出させてくれた。恋だとかではなく、単純に樹里にとって救いだったのだと思う。
「さっき彼と話して、別れたことに後悔はなかったですけど……彼が、別れようかなって、あの子に零してたことは正直ショックでした」
「うん」
「もうどうでもいいなんて思いながらも、彼がそんなことを言うもんかって、思ってしまった。信じていたのかも知れません。でも、彼は目を逸らした。だからつい、彼女に苛立ちを吹っ掛けてしまった。結果的には、全てが分かって良かったのかも知れませんけどね」
本当に女は面倒臭い生き物です、と苦笑した。斎藤も同じような表情を浮かべる。真ん中でブンタが、二人をキョロキョロと見て、可愛い顔をして首を傾げた。
ね、と斎藤が笑った。この話はきっと、以前彼の母が言っていた話だろう。匡はだまされやすい、というアレだ。思い出したくないであろう過去を話し、隣に座っていてくれる。その優しさに触れ、視界が少しずつ落ち着いていく気がした。ぼぅっと眺めた空は、今にも雨が降りそうな重たい雲が広がっている。
「結婚、すると思ってたんです。彼とは長く一緒にいて、指輪を一緒に見に行こうなんて、ようやく言ってもらえたところでした。そんな時、彼女に彼との子供ができた、なんて言われて……まぁ、結果的には嘘だったんですけど。でも、それを知った時はショックで」
「子供、か。そうか。それは辛かったね」
「へへっ……そうですね。なので……斎藤さんのお店で泣きました。それからは、朱莉ができるだけ連れ出してくれて。歯を食いしばっていたのは、僅かだった気がします。長く一緒にいたから、時折思い出すのは仕方なかったですけどね」
仕事が忙しかったのは、幸いだった。家に帰るのも遅くなり、あっという間に眠りについた日が多かったから。それでも残暑の頃は、グッと踏ん張っていた気がする。斎藤と話すようになるまでは。彼とブンタは、樹里に自然な笑顔を思い出させてくれた。恋だとかではなく、単純に樹里にとって救いだったのだと思う。
「さっき彼と話して、別れたことに後悔はなかったですけど……彼が、別れようかなって、あの子に零してたことは正直ショックでした」
「うん」
「もうどうでもいいなんて思いながらも、彼がそんなことを言うもんかって、思ってしまった。信じていたのかも知れません。でも、彼は目を逸らした。だからつい、彼女に苛立ちを吹っ掛けてしまった。結果的には、全てが分かって良かったのかも知れませんけどね」
本当に女は面倒臭い生き物です、と苦笑した。斎藤も同じような表情を浮かべる。真ん中でブンタが、二人をキョロキョロと見て、可愛い顔をして首を傾げた。