ジングルベルは、もう鳴らない
「ねぇ、樹里ちゃん。お正月はどうするの?」
「ん、何も考えてないけど。とりあえず実家に帰るかな。いつ帰るとかは決めてないけど。まぁ、千葉だから。それほどかからないし」
「あ、千葉かぁ。じゃあ日帰りでも行けるんだ。いいなぁ」
「あれ? 朱莉は?」
「私も帰るよ。長崎だからチケットも取ってある」
「長崎かぁ。それは遠いね。お休み入ったら、すぐに出る感じだ」
「そう。今のところは、一日前に有休取って出る予定。ほら、旅行の人たちと被るの面倒じゃない」
樹里の家は遠くない。電車で一時間ちょっとの距離だ。交通費だって、千円に満たない樹里に比べ、彼女は何万円とかかる。『帰省』への思いが、樹里とは違うようだった。
「そうだ。この後、お土産探しに行ってもいい?」
「え、うん。いいよ」
「お姉ちゃんとこのチビに、何か買って帰ろうと思って」
「うんうん。そっか。分かった。朱莉はお姉ちゃんがいたんだね」
「そう。姉が二人。樹里ちゃんは?」
「私は、兄が一人。仲がいいわけでも、悪いわけでもない」
地元の同級生と結婚して、子供も二人いる兄。住んでいるところも実家の近くで、どちらの家にもよく行っているそうだ。それが幸いして、孫の顔を見せろ、というあのフレーズを樹里は言われたことがない。ただ、結婚できない娘のことを不憫だと思っているのは確かだ。きっと正月に帰っても、その小言を言われるのは目に見えている。いくら近くてもあまり帰る気になれない、憂鬱な原因だった。
「チビちゃんは女の子? 男の子?」
「男一人と、女二人。小学生と幼稚園児だね」
「そうか。じゃあ何屋さん見る? おもちゃ屋さんは、今日混んでそうだけど」
「あぁぁ……そうだった」
「本とか文具とかは?」
「あぁそれもいいね。よし、文房具見よう」
そして、嬉しそうにプチケーキに手を伸ばした朱莉。カシスのムースというそれは飴細工で覆われ、陽の光で艶々と輝いていた。樹里は、鮮やかなグリーンのブッシュドノエルを皿に取る。ピスタチオの濃厚なクリームの中に、バニラクリームとフランボワーズの甘酸っぱいクリーム。今は帰省の憂鬱など忘れよう。小さくカットして、それを口に放った。ふわっと広がっていくそれは、何だか恋のような味がした。
「ん、何も考えてないけど。とりあえず実家に帰るかな。いつ帰るとかは決めてないけど。まぁ、千葉だから。それほどかからないし」
「あ、千葉かぁ。じゃあ日帰りでも行けるんだ。いいなぁ」
「あれ? 朱莉は?」
「私も帰るよ。長崎だからチケットも取ってある」
「長崎かぁ。それは遠いね。お休み入ったら、すぐに出る感じだ」
「そう。今のところは、一日前に有休取って出る予定。ほら、旅行の人たちと被るの面倒じゃない」
樹里の家は遠くない。電車で一時間ちょっとの距離だ。交通費だって、千円に満たない樹里に比べ、彼女は何万円とかかる。『帰省』への思いが、樹里とは違うようだった。
「そうだ。この後、お土産探しに行ってもいい?」
「え、うん。いいよ」
「お姉ちゃんとこのチビに、何か買って帰ろうと思って」
「うんうん。そっか。分かった。朱莉はお姉ちゃんがいたんだね」
「そう。姉が二人。樹里ちゃんは?」
「私は、兄が一人。仲がいいわけでも、悪いわけでもない」
地元の同級生と結婚して、子供も二人いる兄。住んでいるところも実家の近くで、どちらの家にもよく行っているそうだ。それが幸いして、孫の顔を見せろ、というあのフレーズを樹里は言われたことがない。ただ、結婚できない娘のことを不憫だと思っているのは確かだ。きっと正月に帰っても、その小言を言われるのは目に見えている。いくら近くてもあまり帰る気になれない、憂鬱な原因だった。
「チビちゃんは女の子? 男の子?」
「男一人と、女二人。小学生と幼稚園児だね」
「そうか。じゃあ何屋さん見る? おもちゃ屋さんは、今日混んでそうだけど」
「あぁぁ……そうだった」
「本とか文具とかは?」
「あぁそれもいいね。よし、文房具見よう」
そして、嬉しそうにプチケーキに手を伸ばした朱莉。カシスのムースというそれは飴細工で覆われ、陽の光で艶々と輝いていた。樹里は、鮮やかなグリーンのブッシュドノエルを皿に取る。ピスタチオの濃厚なクリームの中に、バニラクリームとフランボワーズの甘酸っぱいクリーム。今は帰省の憂鬱など忘れよう。小さくカットして、それを口に放った。ふわっと広がっていくそれは、何だか恋のような味がした。