ジングルベルは、もう鳴らない
「誕生日?」
「誕生日、です」
「今日?」
「今日、ですね」


 無言の静かな時が流れた。小さく掛かるレコードの音。それにハッとして、二人は腹を抱えて笑った。誕生日が同じだなんて、本当にあるんだな。運命を感じたわけじゃないけれど、心はほろほろと綻んでいく。まるで子供が流れ星を見つけた時のように、ウキウキと気持ちは跳ねた。

 涙目を擦りながら、斎藤がキッチンへ向かう。手際よく動く彼を離れたところから見ていて、樹里は立ち上がり自然とカウンターへ足を向けた。仕事ではなく客のように、斎藤がコーヒーを淹れるのを近くで見たかったのである。


「初めてじゃない? カウンターに座るの」
「初めてです。レコードも一杯あるんですね」
「父がね、集めた物ばかりなんだけどね。結構、評判いいんだよ」
「そうなんですね」


 いつもとは違うこの店を見た気がした。座る場所で、雰囲気が違う。こういうレトロな喫茶店ならではなのかも知れない。ゆっくりとした時間が流れる。微睡んでしまいそうなくらい、とても心地が良かった。
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