ジングルベルは、もう鳴らない
「ほら、いろいろあったので。わぁって全部変えてしまいたかったんですよね。でも忙しくて、それどころじゃなくちゃって」
「あぁそうかぁ……そういうのもあるよね」
意見に同意してくれた斎藤が、少しだけ目を伏せた。そのうちに、「でも、そうしたら寂しくなるなぁ」と呟きが聞こえて来る。聞き間違いか? 樹里は驚き、目を見開いて彼を見る。斎藤は力のない声で、なぁブンタ、と問いかけた。これはブンタの意見ということか。それとも……
「ですよねぇ。ブンタ、私も会えなくなるのは寂しいな。じゃあ、引っ越しはまだ先にしよう」
樹里はブンタに笑い掛けるが、頭は混乱している。素直に斎藤の気持ちと捉えてよいのか。いや、だとしても……
「本当? ブンタ、良かったな」
斎藤が笑えば、ブンタは嬉しそうにワンと吠えた。彼らの関係は、まるで兄弟のようだ。幸せな家族。きっとここにヒロミが入って、本当の家族になるのだろう。そう思えば、勝手に拗ねた。
「あの……じゃあ。仕事の関係は終えますけど、ブンタのお散歩、また誘ってもらえませんか」
まだここにいたかった。斎藤とブンタと歩きたかった。深刻そうにではなく、無邪気に言ったつもりだ。彼が笑って「いいよ」と言ってくれれば、それで良かった。でも、斎藤は何も言わないまま樹里を見て、気不味そうに頷くだけだった。ヒロミのことが過ったのだろう。こちらこそお願いしますね、と言う彼が、少しぎこちなく見えた。これ以上は望んではいけない。そう強く思わせるような表情だった。
「あぁそうかぁ……そういうのもあるよね」
意見に同意してくれた斎藤が、少しだけ目を伏せた。そのうちに、「でも、そうしたら寂しくなるなぁ」と呟きが聞こえて来る。聞き間違いか? 樹里は驚き、目を見開いて彼を見る。斎藤は力のない声で、なぁブンタ、と問いかけた。これはブンタの意見ということか。それとも……
「ですよねぇ。ブンタ、私も会えなくなるのは寂しいな。じゃあ、引っ越しはまだ先にしよう」
樹里はブンタに笑い掛けるが、頭は混乱している。素直に斎藤の気持ちと捉えてよいのか。いや、だとしても……
「本当? ブンタ、良かったな」
斎藤が笑えば、ブンタは嬉しそうにワンと吠えた。彼らの関係は、まるで兄弟のようだ。幸せな家族。きっとここにヒロミが入って、本当の家族になるのだろう。そう思えば、勝手に拗ねた。
「あの……じゃあ。仕事の関係は終えますけど、ブンタのお散歩、また誘ってもらえませんか」
まだここにいたかった。斎藤とブンタと歩きたかった。深刻そうにではなく、無邪気に言ったつもりだ。彼が笑って「いいよ」と言ってくれれば、それで良かった。でも、斎藤は何も言わないまま樹里を見て、気不味そうに頷くだけだった。ヒロミのことが過ったのだろう。こちらこそお願いしますね、と言う彼が、少しぎこちなく見えた。これ以上は望んではいけない。そう強く思わせるような表情だった。