ジングルベルは、もう鳴らない

第56話 本音が零れた

「あ、まぁくん。お店、早く閉めたんだね。今日が発売日だったでしょ? だからさっき行ったのに」
「ヒロミ、いいから帰れ」
「帰れって何。たまたま通りかかっただけじゃん。ねぇ、ブンタ。元気だった?」


 そう言って身を屈め、ブンタをグルグルと撫でまわしたヒロミ。ブンタも慣れているのだろう。すぐに腹を出して、嬉しそうにじゃれた。そして樹里は、ただ困惑している。


「今ね、買って来たの。カレー。象、目立ってたね。いい絵だ」
「だから、帰れって」


 二人のやり取りを、後ろの方から黙って見ている。いや、見ているというよりも『呆気に取られている』が正解かも知れない。


「あれ? デートだった? ごめん、ごめん」
「だから、帰れって言ってんだろ」
「いいじゃん。ご挨拶しなきゃ」


 そう言ったヒロミが、樹里の前に立つ。こんばんは、と言う斎藤よりも少し高い声。この人も優しい人だと思う。そんな声色だった。
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