ジングルベルは、もう鳴らない
「何で結婚しちゃうんだろう、あんな男と。結婚生活が夢に描いた通りに行くとは、私だって思ってないですよ。でも、あんな奴がお父さんになるなんて許せない。今の生活をちゃんと見つめないで、逃げてるんですよ」
「そうだね。結婚も、夢や希望だけじゃないはずだもんね」
「うんうん。結婚の話とか友人としてもね、結婚式がしたいって言うんですよ。でも、それって一瞬で終わるじゃんって。綺麗なドレスが着たいなら、私は一人で写真を撮りに行きます。結婚なんて望まない。仕事があって、ちょっとの癒しと美味い物があればいいです」
朱莉はきっぱりとそう言い切った。彼女の目に迷いはない。傷付いた後の強がりではなく、本当にそう思っているのだと思った。朱莉は決してオブラートには包まない。今は、それがひどく心地よかった。
「ところで、樹里さん。何かあったでしょう? 大丈夫ですか」
「あ、うん」
「仕事のことですか。駅通り過ぎてるのに気付かないほど、悩むなんて」
「あぁ……そう、だね」
急に自分へ矛先が向けられ、樹里はつい口籠った。
一時間ほど前に自分に起こったこと。簡単に言うことも出来ず、だからと言って上手く誤魔化すことも出来ない。そのくせ本音では、誰か聞いて欲しいと思っている。実に面倒くさい生き物だ。一人で答えを出すことに不安で、出来るわけもないのに、先延ばしにしてしまいたい。不安で、怖くて、逃げてしまたいのだ。そんな話を友人に相談出来るのだろうか。幸せな家庭を築いているような友人たちに。
朱莉は、そんな樹里を心配そうに覗き込む。まぁ生きてりゃ色々ありますよねぇ、と。仕事ではないと察しているようではあるが、深く問うようなことはしない。あぁこの子はきっと、本心しか言わないだろう。恐る恐る、樹里は口を開いた。
「そうだね。結婚も、夢や希望だけじゃないはずだもんね」
「うんうん。結婚の話とか友人としてもね、結婚式がしたいって言うんですよ。でも、それって一瞬で終わるじゃんって。綺麗なドレスが着たいなら、私は一人で写真を撮りに行きます。結婚なんて望まない。仕事があって、ちょっとの癒しと美味い物があればいいです」
朱莉はきっぱりとそう言い切った。彼女の目に迷いはない。傷付いた後の強がりではなく、本当にそう思っているのだと思った。朱莉は決してオブラートには包まない。今は、それがひどく心地よかった。
「ところで、樹里さん。何かあったでしょう? 大丈夫ですか」
「あ、うん」
「仕事のことですか。駅通り過ぎてるのに気付かないほど、悩むなんて」
「あぁ……そう、だね」
急に自分へ矛先が向けられ、樹里はつい口籠った。
一時間ほど前に自分に起こったこと。簡単に言うことも出来ず、だからと言って上手く誤魔化すことも出来ない。そのくせ本音では、誰か聞いて欲しいと思っている。実に面倒くさい生き物だ。一人で答えを出すことに不安で、出来るわけもないのに、先延ばしにしてしまいたい。不安で、怖くて、逃げてしまたいのだ。そんな話を友人に相談出来るのだろうか。幸せな家庭を築いているような友人たちに。
朱莉は、そんな樹里を心配そうに覗き込む。まぁ生きてりゃ色々ありますよねぇ、と。仕事ではないと察しているようではあるが、深く問うようなことはしない。あぁこの子はきっと、本心しか言わないだろう。恐る恐る、樹里は口を開いた。