ジングルベルは、もう鳴らない
「中野宏海と言います。まぁくんとは、幼馴染でね。かれこれ四十年以上の付き合いになるかな」
目を細くして微笑み、よろしくね、と言った彼。ぼんやりと覚えていたあの女の子ではない。確か、店で何度か見かけた人だ。じゃあ、勝手に戦ってきたとはいえ、あの女の子は誰? 彼女がヒロミではなかったのか。段々とパニックになった樹里は、斎藤に助けを求めていた。
「松村さん、大丈夫?」
「松村さん? え? あぁ本当だ。あの象ね、僕が描いたんだよ。ブサ可愛かったでしょ」
ぎこちなく頷いて、ブリキのように口元を緩めた。彼が、ヒロミ? 何が起こっているのか、分からなくなってしまった。このやり取りの中で確信したのは、彼は中野宏海。斎藤の幼馴染の男性であることだった。
「もう、宏海はいいから帰れ。カナコ帰って来るだろ」
「もう帰って来てるよ。それで話になったから、まぁくんのカレー買いに出て来たんじゃん」
「はいはい。分かった、分かったから。帰れ」
「はいはいはい。帰りますよ。もう」
斎藤には不満そうな顔を見せた宏海だったが、樹里には「きっと、また会えるかな」とニッコリ微笑んだ。意味が分からなかったが、ぎこちなくとも笑みを返した。それに満足したように頷いた宏海は、プラプラとエコバッグを振りながら消えて行く。その背を、二人と一匹は並んで見ていた。
戸惑う樹里。嬉しそうなブンタ。その脇で、はぁぁぁ、と大きな溜息を吐く斎藤。余程会いたくなかったのだろう。ごめんねぇ、と消え入るような声が聞こえて来る。
「アイツ。昔っからさぁ、あぁやって首を突っ込みたがるんだよな」
「宏海さん」
「ん? そう、宏海」
樹里はなかなか思考が纏まらない。急に、目の前にいたはずの対戦相手が消えてしまったのだ。あんなに戦ってきたあの子は誰なのか。ヒロミ、だと思い続けたあの子は一体。
目を細くして微笑み、よろしくね、と言った彼。ぼんやりと覚えていたあの女の子ではない。確か、店で何度か見かけた人だ。じゃあ、勝手に戦ってきたとはいえ、あの女の子は誰? 彼女がヒロミではなかったのか。段々とパニックになった樹里は、斎藤に助けを求めていた。
「松村さん、大丈夫?」
「松村さん? え? あぁ本当だ。あの象ね、僕が描いたんだよ。ブサ可愛かったでしょ」
ぎこちなく頷いて、ブリキのように口元を緩めた。彼が、ヒロミ? 何が起こっているのか、分からなくなってしまった。このやり取りの中で確信したのは、彼は中野宏海。斎藤の幼馴染の男性であることだった。
「もう、宏海はいいから帰れ。カナコ帰って来るだろ」
「もう帰って来てるよ。それで話になったから、まぁくんのカレー買いに出て来たんじゃん」
「はいはい。分かった、分かったから。帰れ」
「はいはいはい。帰りますよ。もう」
斎藤には不満そうな顔を見せた宏海だったが、樹里には「きっと、また会えるかな」とニッコリ微笑んだ。意味が分からなかったが、ぎこちなくとも笑みを返した。それに満足したように頷いた宏海は、プラプラとエコバッグを振りながら消えて行く。その背を、二人と一匹は並んで見ていた。
戸惑う樹里。嬉しそうなブンタ。その脇で、はぁぁぁ、と大きな溜息を吐く斎藤。余程会いたくなかったのだろう。ごめんねぇ、と消え入るような声が聞こえて来る。
「アイツ。昔っからさぁ、あぁやって首を突っ込みたがるんだよな」
「宏海さん」
「ん? そう、宏海」
樹里はなかなか思考が纏まらない。急に、目の前にいたはずの対戦相手が消えてしまったのだ。あんなに戦ってきたあの子は誰なのか。ヒロミ、だと思い続けたあの子は一体。