ジングルベルは、もう鳴らない
第1話 女は少し笑った
「樹里。悪いけど……千裕と別れてくれないかな」
「は?」
最後に聞いたジングルベルから、もう半年。真夏の暑苦しい金曜日の仕事終わりのこと。目の前でストローを弄りながらそう言った女に、松村樹里は怪訝な顔をした。何故、第三者にそんなことを言われねばならないのか。彼女がそういう理由は、何も続いて来ない。それがまた苛立ちを煽る。
数年ぶりに連絡をして来て、そんなことを急に言い出した女――小笠原香澄は、樹里の元同期である。新卒で入った前の会社で、同期入社だった彼女。常に可愛らしく整えていて、ぶりっ子。男性陣は実際どう思っていたか知らないが、同性受けが良くないのは確かだ。つまりは、樹里だってあまりいい印象はない。それほど大きくない会社の中で、適当に上手く付き合っていたような相手である。仲良くなんてなかった。樹里は彼女を小笠原さんと呼ぶが、香澄はこうして樹里と呼ぶ。こういうところも、彼女を苦手なところだった。
「えぇと、ごめん。小笠原さん。一体、何を言ってるの」
動揺することもない。ただ、コイツは何を言っているのか、と訝しんでいるのである。すると香澄は、当然そう言うよね、と目を伏せた。ちょっとだけいつもの香澄と違う感じがする。会わない間に何か変わったのだろうか。樹里の中の違和感が揺れた。何があっても自信満々でいるのが小笠原香澄という女。仕事でミスをしたって、堂々と誰かに擦り付ける。そんな女なのだ。今までこんな顔を見たことはない。本気で言っているだろうのか。
「は?」
最後に聞いたジングルベルから、もう半年。真夏の暑苦しい金曜日の仕事終わりのこと。目の前でストローを弄りながらそう言った女に、松村樹里は怪訝な顔をした。何故、第三者にそんなことを言われねばならないのか。彼女がそういう理由は、何も続いて来ない。それがまた苛立ちを煽る。
数年ぶりに連絡をして来て、そんなことを急に言い出した女――小笠原香澄は、樹里の元同期である。新卒で入った前の会社で、同期入社だった彼女。常に可愛らしく整えていて、ぶりっ子。男性陣は実際どう思っていたか知らないが、同性受けが良くないのは確かだ。つまりは、樹里だってあまりいい印象はない。それほど大きくない会社の中で、適当に上手く付き合っていたような相手である。仲良くなんてなかった。樹里は彼女を小笠原さんと呼ぶが、香澄はこうして樹里と呼ぶ。こういうところも、彼女を苦手なところだった。
「えぇと、ごめん。小笠原さん。一体、何を言ってるの」
動揺することもない。ただ、コイツは何を言っているのか、と訝しんでいるのである。すると香澄は、当然そう言うよね、と目を伏せた。ちょっとだけいつもの香澄と違う感じがする。会わない間に何か変わったのだろうか。樹里の中の違和感が揺れた。何があっても自信満々でいるのが小笠原香澄という女。仕事でミスをしたって、堂々と誰かに擦り付ける。そんな女なのだ。今までこんな顔を見たことはない。本気で言っているだろうのか。