ジングルベルは、もう鳴らない
「ブンタっていうのね。いいお名前ね」


 顎の下へ、そっと手を伸す。ブンタは嬉しそうに大きく尻尾を振った。それが可愛くて、何だかホッとして、涙が出そうだった。こんな締め付けられた心を、この子は分かっているのかも知れない。撫でている手を体に伸ばすと、また一段と気持ち良さそうな顔をする。感じる温もり。それが今夜は、本当に身に染みる。


「お疲れのところに、本当にすみません。ありがとうございました。さぁブンタ、お散歩行くよ」


 飼い主の言葉に応じるように、ワン、と元気に返事をしたブンタ。歩き出した彼らの背に、樹里は小さく手を振る。それは、逃げ出したい自分の心に、別れを告げるようでもあった。香澄が嘘を言っていたとしても、千裕にはきちんと聞かなければいけない。彼女と本当は何があったのか。ブンタに触れて、落ち着きを取り戻した心。このままじゃいられない。気付けば、そう呟いていた。
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