ジングルベルは、もう鳴らない

第5話 そして、口を開いた

 いつもの公園で待ち合わせをして、いつもと変わらないように過ごした。宝飾店へは近づかないように気を付けたが、それ以外は普通に出来たと思う。カフェに入って、向かいに座る。コーヒーを頼んで、今日も暑いね、なんて他愛もない話をして笑った。なんてことない、いつもと同じ時間。平和に時が流れすぎて、本題を忘れてしまいそうになる。二人の目前に、コーヒーが並ぶ。ごゆっくりどうぞ、と店員が離れた瞬間、樹里の中に盛大なゴングの音が鳴り響いた。


「ねぇねぇ、千裕。これって一人で選んで買ってくれたの?」


 出来るだけ嬉しそうな顔で、ネックレスに触れながら千裕に問うた。まだ、彼を見ない。千裕のことは信じている。だが、昨日よりも追及してやろうと思う気持ちは強くなっていた。朱莉という強い味方。それから、あのブンタという犬の温もり。一人じゃないと思わせてくれた優しさが、今、樹里の背を押してくれている。

 朱莉は今朝も、電話を寄越した。話し合う時に近くにいます、と。 それは心強いと一瞬は思ったが、流石に断った。これは樹里の、一人で立ち向かうべき問題だ。終えたら必ず連絡を入れると約束し、しぶしぶ朱莉は納得してくれた。通話を終える時にくれた、相手の目をよく見て、という有り難い助言。疚しければそこに必ず表れるから、と。疚しければ、だけれど。
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