ジングルベルは、もう鳴らない
「へぇ、そうだった。じゃあ、皆にお礼でも言おうかなぁ」
「え、いや。それは、いらないんじゃない?」
「ん、なんで? だって考えてくれたんでしょう? 私はそれを貰って、とっても嬉しかったんだもん。それにしばらく話してないし、久しぶりだから……えっと同期、同期」
「いや、いや。いいって。恥ずかしいよ」


 携帯を弄って、メッセージアプリを立ち上げる。「小笠原さんもいたよね。彼女に言えばいいかな」と意地悪く吹っ掛けた。やたら慌てて止めに入る千裕には、怪しさしか感じない。


「もう、分かったよ。そんなに慌てなくたっていいのに」
「だってさぁ。そんなことしたら、俺、月曜から大変だよ? しばらく弄られるの目に見えてるじゃん。ただでさえさぁ、上手く指輪に誘導出来たかぁってさ。毎日煩いんだから。知ってるでしょ、アイツらのこと」
「まぁ言いそう、だよね」
「だろ?」


 ケラケラ笑って誤魔化すが、感度の高まったアンテナは、この彼の動揺を逃がさない。朱莉が言っていた。目をよく見ろ、と。千裕の目は落ち着きがなく、手にした紙ナフキンで流れてもいない汗を拭っている。


「あ、ちょっと待って。仕事の連絡入ってた」
「うん。やっぱり忙しかったんだろ? 気にしないで連絡して」
「ごめんね」


 基本的に千裕は優しいから、そう言うだろうと思った。仕事の顔を作って、樹里はあの時送られて来た写真を確認する。そして、絞られたターゲット。この中で一番真面目な男。タタッとメッセージを打ち込む指は軽やかに踊った。
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