ジングルベルは、もう鳴らない
「そうそう。千裕、今度お父さんになるんだってね」
「は? いや、え?」
「おめでとう。六年の終わりなんて呆気ないもんねぇ。ホント。千裕の気持ちに気付いてあげられなくて、ごめんね」
「いやいや、樹里。何か勘違いしてないか。何を言ってるんだよ」


 その必死さは、二人の関係を維持しようとしているようには見えた。ただそれは、樹里を苛立たせるには十分だった。大事に思っているなら、どうしてこんなことになったのか。それに、相手が悪い。もう最悪だ。


「自分でしたことの責任は取りなさいよ。いい年して、逃げて終わりにしようだなんて思わないことね」
「樹里……違うんだ。本当に何も、何もないんだ」
「へぇ? 誰と、何もないって?」


 意地悪だな、と思った。でも、嫌味の一つや二つ言ったって、咎められる筋合いはない。きちんと自分のしたことを認めて、責任は取るべきだ。香澄のことは好きでもないが、同い年の女として同情している。よりによって自分の彼氏が相手というのは、泣きたいしムカつくけれど。

 千裕は下を向き、言い淀んでいる。
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