ジングルベルは、もう鳴らない
「樹里……」
「そんな顔したって許される話じゃない。自分のしたことに責任を持て。ちゃんと向き合いなさいよ。もしもセックスしたのなら、簡単に子供を堕ろせなんて言うもんじゃない。それが、どれだけ女を苦しめてると思ってんの……ふざけんな」

 樹里は伝票を持って、勢いよく席を立った。最後に奢られるのはごめんだ。千裕は項垂れたまま、こちらを見ない。仮に子供のことが作り話だったとしても、千裕は嘘をついて別の女と会っていた。それも、何度も。それだけで、別離は決まったようなものだ。簡単に嘘をつくような男と、結婚をしなくて良かった。今はその安堵が、心を埋め尽くしている。

 最後に千裕を見た時、隣から好奇の目で見ていた女と目が合った。もう睨み付けない樹里へ、彼女は小さく拍手をして見せる。何だかそれが嬉しくて、ニヤリと笑みを見せ、ガッツポーズをして前を向く。昨日の朱莉みたいだな、と思って、また笑みが零れた。
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