ジングルベルは、もう鳴らない

第8話 幸せは、結婚の隣にしかないわけじゃない

「わぁ、見て。美味しそう」


 不満気だった朱莉は、目の前に皿が並んだ途端に笑顔になった。美味しい物が目の前にあったら食べるしかない。それが彼女のモットーだ。いただきます、という声がもう弾んでいる。樹里も釣られて微笑むと、同じようにスプーンを差し込んだ。キーマの上には半熟の玉子。それがまた食欲をそそる。


「あ、チキンも美味しい。結構、まろやかな感じ。キーマも美味しいでしょう?」
「うん、美味しい。スパイスが強過ぎないから、食べやすいね」
「ねぇねぇ、こっちも食べてみて」
「うん」


 朱莉との距離が、少しずつ縮まって来た気がする。別に直属の上司でもないし、仕事ではほぼ関りがない。わざわざ敬語で話す必要もない。何だか友人が新しく出来たようで、ちょっと嬉しかった。


「あ、なるほど……これはお家のカレーをグレードアップした感じだね。玉ねぎとトマトがちゃんと活きてて。うんうん」
「樹里さん、リサーチし過ぎ」
「あら、やだ」

 ケラケラ笑って、食事をして。こうやって楽しい時間を過ごしていたら、千裕のことなんてどうでもいいと思える日がすぐに来る。そんな自信が、樹里の中にはあった。
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