ジングルベルは、もう鳴らない
「ねぇ樹里さん。無理しないでいいよ」
樹里が最後の一口を放った時、朱莉がそう心配そうにこちらを見た。へ、と間抜けな返事をして、彼女を見返す。心配するような目だった。いつまでも気にしていられないし、前を向こうとしている。そう思っていたけれど、彼女には一体どう見えていたのか。ちゃんとカレーの味もする。カルダモンの香りだって感じている。わたしという人間はきちんと機能している。樹里は不思議に思った。
「無理して笑わなくっていいよ」
「え、無理してないよ。何言ってるの」
「樹里さん」
真っ直ぐに言われて、すぐ、涙が頬を伝った。驚く感情に反して、それは次々と流れ出る。慌ててハンカチを出し拭うが、なかなか止まってくれない。朱莉は隣の席に座り替え、頑張った頑張った、と優しく背を擦ってくれる。だからもう、止まらなかった。口の中に、カレーの辛さが残る。あぁ他に客はいたろうか。気にはなっても、確認はできない。どうか知らぬ振りをしていて。そう願うしかなかった。
千裕がいなくなった不安だろうか。それとも裏切られた怒りか。どちらにしても、心は抉れてぽっかりと穴が開いている。これは埋められるのか。このまま一人ぼっちで生きていくのか。一歩近づいた明るい未来は、すべて失った。見事に打ち砕かれたのだ。でも、一人じゃない。背を摩ってくれる温かさは、ちゃんと感じられている。
樹里が最後の一口を放った時、朱莉がそう心配そうにこちらを見た。へ、と間抜けな返事をして、彼女を見返す。心配するような目だった。いつまでも気にしていられないし、前を向こうとしている。そう思っていたけれど、彼女には一体どう見えていたのか。ちゃんとカレーの味もする。カルダモンの香りだって感じている。わたしという人間はきちんと機能している。樹里は不思議に思った。
「無理して笑わなくっていいよ」
「え、無理してないよ。何言ってるの」
「樹里さん」
真っ直ぐに言われて、すぐ、涙が頬を伝った。驚く感情に反して、それは次々と流れ出る。慌ててハンカチを出し拭うが、なかなか止まってくれない。朱莉は隣の席に座り替え、頑張った頑張った、と優しく背を擦ってくれる。だからもう、止まらなかった。口の中に、カレーの辛さが残る。あぁ他に客はいたろうか。気にはなっても、確認はできない。どうか知らぬ振りをしていて。そう願うしかなかった。
千裕がいなくなった不安だろうか。それとも裏切られた怒りか。どちらにしても、心は抉れてぽっかりと穴が開いている。これは埋められるのか。このまま一人ぼっちで生きていくのか。一歩近づいた明るい未来は、すべて失った。見事に打ち砕かれたのだ。でも、一人じゃない。背を摩ってくれる温かさは、ちゃんと感じられている。