ジングルベルは、もう鳴らない
「ごめん……ごめん。よし、もう大丈夫」
「無理しなくていいのに」
「ううん。ありがとう。大丈夫よ」


 心配顔で視線を合わせる朱莉に、微笑み掛ける。涙はまだ止まってくれない。それでも、必死に止めようと顔を上げた。ぼんやりとした視界。空を見ながら、樹里はぽつりと零した。誤解なんだって、と。朱莉が背を摩る手を止める。


「一番重大なところは、認めなかった。何か勘違いしてるんじゃないかって」
「勘違いって何。やっぱり女に騙されたってことですか」
「どうだろう。でも、実際に二人は会ってたの。何度も。だから、《《そういうこと》》があってもおかしくないよね。大人の男女、だもの」

 真実は分からない。けれど、何度も嘘をついて香澄と会っていた。ただご飯を食べた、酒を飲んだだけ、なんて認められるか。同期会だと言ったから、快く送り出していたのに。彼らと一緒なら、最悪ホテルに置いて行ってくれる安心感があったから。今思えば、飲み過ぎた連絡はなかった。どこだか分からなくて帰れない、と泣きついてくることもなかった。それはそうだ。香澄と二人で過ごしていただけなのだから。


「私、どうせ女の嘘だろうって思ってたんです。それじゃ、彼氏さんも同罪じゃないですか。わざわざ、嘘をついてまで女と会っていたって。疚しくないなら、堂々と言えばいいんですよ」
「そう。そうなの。だからね、あぁ疚しいんだなって。彼は何も認めやしなかったけど、そういうことなんだなって」
「あぁもう。私の奴より最悪ですよ」
「ホント……。誕生日プレゼントにね、ネックレス貰ったの。嬉しかったんだぁ。でもさ、それも彼女と見に行ってたみたい。それを大事にして、昨日あの子に会った時も付けててさ。私、本当に馬鹿みたいよね」

 涙目のまま、溜息を零しつつ言った言葉に、朱莉が引いたのが分かった。嘲笑った香澄の顔が蘇る。馬鹿な女、とでも思っていたのだろうか。私の勝ちよ、とも思っていたかも知れない。こんなことになるくらいなら、もっと早く別れてくれたら良かったのに。千裕はどうして、別れたくないと縋ったのだろう。
< 48 / 196 >

この作品をシェア

pagetop