ジングルベルは、もう鳴らない
「向こうは、別れるのに了承したんですよね?」
「あぁ、いや。それがね。もう二度と会わないって言ったら、嫌だって。でも、意味分かんないでしょ。だから、ふざけんなって。そんなこと言うなら、浮気なんかすんなって言ってやった」
「おぉ、カッコいい」
「昨日の朱莉の気持ち分かったかも。もっと言ってやれば良かった」


 ようやく、全てを吐き出した。涙ももうすっかり止まった。傷が全て癒えるには時間が要るのだろうが、それでも明日は違う未来へ踏み出せる。そんな気がした。


「あの……」


 さっきヒロミと呼ばれていた店員が、おずおずと声を掛けて来た。お盆にはプリンが二つ。朱莉と二人、きょとんとして彼女を見返す。


「良かったら召し上がって下さい」
「え、いやいや」
「初めて上手に出来たんです。へへへ。ちょっと実験台みたいで、ごめんなさいですけど。良かったら、是非」


 彼女はそう言って、涼しげなガラスの器を二人の前に置いた。樹里が戸惑っていると、朱莉はもう嬉しそうに「ありがとうございます」と言って向かいに座り直す。どしようとキッチンを覗いたが、主人の姿はそこに無かった。そして朱莉は、食べたそうに樹里を見つめる。時には、こういう優しさに甘えてもいいのか。昨日のブンタの温もりのように。
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