ジングルベルは、もう鳴らない
「ありがとうございます。いただきます」


 悩んだが、今日は優しさを素直に受け取ろうと思った。朱莉の顔はぱぁっと明るくなり、それもまた心を温める。カウンターに座った男性客も、なんだか嬉しそうにプリンを頬張っていた。


「いただきます。あ、美味しい」
「本当だ。美味しい。お姉さん、とっても美味しいです。ありがとう」


 朱莉は大きな声で、彼女に向かって礼を言った。本当に嬉しかったのだろう。ニコニコと子供のように食べている朱莉。樹里はそれを見て、ふふふっと笑った。

 プリンの甘さが、心に空いた穴に落ちる。寄り添ってくれた朱莉。それから、こうして優しさをくれたヒロミさん。もう、これで良いのではないかと思った。朱莉の言うように、仕事があって、ちょっとの癒しと美味い物があればいい。多くは望まない。きっと幸せは、結婚の隣にしかないわけじゃないから。
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