ジングルベルは、もう鳴らない
「樹里さん、今後の調査店のリストアップなんですけど。味の系統とかはどうしますか。決めてかかります?」
「あぁ、いや。今まで通りで、もうちょっとやってみようと思うの。それからもう一度ミーティングかけて、方向性を決めようかな」
「分かりました」


 ミーティング終わりに声を掛けてきた男――平野(ヒラノ)大樹(タイキ)は、まだ学生のような面持ちをしている。一生懸命にやるが、肝心なところが抜けてしまう。そういうちょっと残念な男である。樹里のチームの若い子たちの中で、最も不安なのがこの男だった。


「平野くん、落ち着いてやったらいいからね」
「はい。ありがとうございます」
「他の仕事との優先順位も忘れずにね」
「はい」


 もう三十になろうかと思うが、ちょっとした時に甘えた性格が出る。それでも最近、後輩の評価が気になるようで、今回はいつになくやる気を出していた。だからこそ、樹里の不安は拭えない。頑張ります、とやる気に満ちた大樹の表情に、つい苦笑いした。


「大丈夫かな……」


 何とかチームを纏める位置に立った。転職組、それから女。足枷になる要素はそこそこ持っている。そんなもの今では昇進に影響のないことだが、人間関係はというと微妙なところであった。
< 52 / 196 >

この作品をシェア

pagetop