ジングルベルは、もう鳴らない
 スマートウォッチが受信を知らせる。就業中だというのに、朱莉からだった。


『今週末、映画観に行きますよ』
『土曜と日曜、どっちがいい?』


 それを読んで、フッと笑みが零れる。映画を見るのは決定事項なんだ、と。


『それなら土曜じゃない?』
『映画観て、飲みに行こうよ』
『で、何の映画?』

 そう問うと、朱莉はすぐにサイトを送って寄越した。どうやら、ヤクザ映画のようだ。こういうのも好きなのか。彼女の指定する映画は、正直言って好みではない。けれど、安易に拒否はしなくなった。実際にそれを観て見なければ、面白いのかは分からない。そう考えられるようになったのだ。

 自分だけの考える狭い世界では、見ることも、知ることもなかったもの。樹里にしたら朱莉の趣味は新しい発見で、新しい物に出会うのも面白くて、刺激になっているのだと思う。千裕との終わりは散々だったが、こんな友人を見つけられたことは幸せだ。やっぱり、恋なんてしばらくいらない。
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